バターロボットと浅すぎるイノベーションの罠
- Peter Thomas
- 5月23日
- 読了時間: 4分
Rick & Mortyが教えてくれる「ジョブ理論」の核心
世界中のプロダクトイノベーターたちは、顧客が製品やサービスを「利用する本当の理由」を明らかにするために、**ジョブ理論(Jobs To Be Done / JTBD)**を活用しています。
このフレームワークは、製品のスペックや機能にとらわれた思考から、顧客が求めている成果や変化に視点を移すためのものです。
つまり、製品の「What it is(何であるか)」ではなく、
「What it does(何をしてくれるか)」、
そして「Why(なぜ選ばれるのか)」に着目する思考法です。
本質はこうです。
顧客は製品そのものではなく、その先にある望ましい結果を“雇って”いるのです。
私たちがあるクライアントと共にJTBDワークショップを行っていた時、ある名シーンがふと頭をよぎりました。
それは、Rick & Mortyに登場する、完璧に設計された“あるプロダクト”が、まったく意味を持たなかったという話。
「私の目的は?」
Rick & Morty シーズン1 第9話
朝食中のリックが、何気なく小さなロボットを組み立てます。
起動すると、ロボットは問いかけます。
「私の目的は?」
「バターを渡すことだ」
「...なんてこった」
「ようこそ、現実へ」とリック。
ただそれだけ。
このロボットは、「バターを渡す」ためだけに作られた製品です。
技術的には完璧。
タスクも明確。
でも、その存在に何の意味もない。
ジョブを履き違えたプロダクトは、心に届かない
この「バターロボット」は、表面的な機能的ジョブだけを満たし、
感情的ジョブや社会的ジョブを完全に無視したプロダクトの象徴です。
ちゃんと機能する
問題も解決している
だけど、誰の心も動かさない
つまり、人間の本質的なニーズを捉えていない。
実在したバターロボット:Juicero
「私の目的は?」
「ジュースパウチを絞ることだ」
「……なんてこった」
Juiceroは、冷蔵パウチに入ったジュースを“絞る”ためだけの、Wi-Fi接続スマートマシン(約4万円)。
果物は絞らない。
中身はすでに搾汁されたジュース。
やることはただ一つ、袋を押し出すだけ。
そして決定的だったのは、Bloombergの検証。
「これ、手で絞れるじゃん」
技術的には何の問題もなかった。
でも、人間の手で簡単に代替できるタスクを、
超高額&過剰設計で“解決”してしまったのです。
Juiceroは完璧に“バターを渡した”。
でも、誰もバターなんて求めてなかった。
本当のJTBDは「変化」にある
問いかけるべきは機能ではなく、変化です。
この製品は、単なるタスクを自動化しているだけか?
それとも、ユーザーの生活や感情に変化をもたらしているか?
「何かをする」以上に、「誰かを変える」ものになっているか?
機能を満たすだけの製品では、人の心は動きません。
意味を与える製品こそが、真のイノベーションです。
JTBDの理想形:Dyson Airwrap
Juiceroが「誰も望んでいなかったジョブ」を解決しようとした一方で、
Dyson Airwrapは「本当に価値のあるジョブ」を理解し、
それを美しく解決しました。
Dyson Airwrapは、髪を巻く道具ではない。
それは、“自分らしさ”を取り戻すための習慣をつくる製品です。
機能的ジョブ:短時間で髪をスタイリングする
感情的ジョブ:自信を持って一日を始めたい
社会的ジョブ:自分を美しく見せたい、整った印象を持たれたい
ユーザーの声はこうです:
「朝の準備が楽になった」
「髪を痛めずに理想のスタイルが作れる」
「高いけど、手放せない」
これこそが、ジョブ理論の本質。
タスクをこなすのではなく、人を変える体験を提供する。
Haruna Co-Createがつくるもの
私たちは、バターロボットをつくりません。
Haruna Co-Createは、
表面的なタスクではなく、
顧客が本当に求めている「変化」や「意味」を共に探ります。
製品を売るのではなく、「目的と変化」をつくる
スペックではなく、「物語」をデザインする
タスクではなく、「感情と関係性」に向き合う
「これは本当に、やる価値のあるジョブか?」
それが、私たちの出発点です。
Don’t build a butter robot.
Solve a job worth doing.
価値あるジョブを、共に生み出そう。
ピーター・トーマス
Chief Innovation Officer
ハルナグループ
ハルナ・コクリエイト
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